浦島太郎の文学史―恋愛小説の発生 (五柳叢書)

舌きり雀といい、桃太郎といい、日本の昔は良い事をした人が最後「ご褒美」をもらえるという話が多い。しかし、浦島太郎だけは、亀を助けて善行を施したのに、帰宅したら数百年経っていて、父母はとっくに亡くなっており自分も一気に老人になってしまう。善行の報いが何故こうなのか。これは、私が小学生の時感じた疑問と同じである。本書によれば、「浦島太郎」の伝説は、元は恋愛の物語だったそうである。だとすれば、納得がいくことである。「万葉集」の段階では、まず亀が出てこない。亀を助けたそのお礼に「竜宮城」に招かれる訳ではない。純粋に、釣りをして出会った海神の娘子と恋に落ち、結婚して海神の娘子の宮殿で暮らすのである。「万葉集」以後も、浦島太郎についての伝説や物語を記した書物がある。現在の「日本昔噺『浦島太郎』」は巌谷小波が室町時代の「お伽草子『浦島太郎』」を元に作った物語だそうです。ただ、「お伽草子『浦島太郎』」が、玉手箱を開けた浦島太郎が老人となり、鶴となって天上に行き神となり、女も亀となって夫婦の明神となった、で終わるのに対し、巌谷小説では玉手箱を開けたところで終わっている。だからつじつまが合わないのです。巌谷小説の方は子供向けに書いたものであり、恋愛色を一掃した。それが国定教科書に採用されたから、それが権威付けされ固定化したとあります。ただいずれも「昔話」ですから。御伽草子も小説ですし、どれが正しいとは言えないです。話としては、約束を破って死ぬ「万葉集」型か、最後に二人とも神になって終わる「お伽草子」型がすっきりするでしょう。日本昔話も進化しているのです。