消えたヤルタ密約緊急電―情報士官・小野寺信の孤独な戦い (新潮選書)

不世出の情報士官・小野寺信と、情報を軽視して敗れた日本の病弊について紹介している功績については、多くの方がレビューされているので繰り返す必要はないでしょう。本書の価値として、現代に生きる私たちにも通じる教訓が含まれていることも挙げていいと思います。小野寺の人となりは、「連合国を恐れさせた情報将校」という評価からは想像もつかない、穏やかで知的な人物だったそうです。祖国を失ったポーランド人に手を差し伸べるなど、紳士的な態度で相手に誠実に接する。だからこそ、信頼できる協力者に恵まれ、良質な情報を得ることができたわけです。諜報活動というと、騙し合いばかりのイメージがありますが、このあたりは私たちの人生にも活かせる教訓と言えるでしょう。どんなスパイ小説や歴史小説よりも面白く、読み応えがあります。壮大な歴史と個々の人間ドラマを上手く描いているからでしょう。ただし、話の展開上、瀬島龍三あたりが完全な悪役になってしまっていることは留意しておくべきです。「ヤルタ密約電」を握りつぶした犯人を捜すくだりは、多分に推論を含んでいますので。この点が気になるので、個人的には☆4.5くらいのつもりです。